知られていない、自転車の国から。
バングラデシュで自転車がつくられている。
今ではそれを日本で紹介する仕事をしていますが、最初にその話を聞いたとき、私自身、バングラデシュで自転車がつくられていることをまったく知りませんでした。
当時の日本で流通する自転車といえば、中国や台湾で生産されたものが圧倒的に多く、少しずつ東南アジアでの生産も増え始めていた頃です。
自転車業界にそれなりに長くいた私にとっても、「バングラデシュ製の自転車」というのは初耳でした。
始まりは、近所のケバブ屋さん
まだ独立する前、私は会社に雇われ、一般自転車店の店長をしていました。
その頃のお客さんの一人に、近所のケバブ店で店長をしていたバングラデシュ人の男性がいました。
彼はハラル食材の卸売りもしていて、その仕事に自転車を使っていたため、修理やメンテナンスでたびたび店を訪れていました。
その後、私は会社を退職し、独立して自分の自転車店を開きます。
以前勤めていた店舗からそれほど離れていない場所での開業だったこともあり、噂を聞いた彼が、ある日店を訪ねてきました。
そこで持ちかけられたのが、思いもしなかった相談でした。
「バングラデシュの自転車を日本に輸入しようと考えている。自転車に詳しい店長にアドバイスをもらいたい」
これが、すべての始まりでした。
正直、売れるとは思わなかった
話を聞いたとき、私はバングラデシュで自転車を生産していることすら知りませんでした。
そして当時、バングラデシュについて自分が持っていた知識も、今振り返れば非常に浅いものでした。
「貧しい国」。
その程度の認識です。
当然、そこでつくられた自転車が日本の市場で通用するとも考えていませんでした。
彼には申し訳ないのですが、この時点ではバングラデシュの自転車に深く関わろうという気持ちはなく、「実際に輸入が始まったら、店の一角を展示スペースとして使ってもらうくらいなら」と考えていました。

ところが、後日見せてもらった写真が、その認識を少し変えます。
「あれ、普通のスポーツ自転車だ」
見せてもらったのは、バングラデシュの工場からヨーロッパへ出荷されている自転車の写真でした。
そこに写っていたのは、私が漠然と想像していたものとはまったく違いました。



ロードバイクやクロスバイクなど、日本の自転車店でも見慣れているスポーツ自転車と変わらない車体が並んでいました。
話を聞いて、さらに驚きました。
その工場で生産される自転車の多くは、バングラデシュ国内で販売するためのものではなく、ヨーロッパへ輸出するためにつくられているというのです。
欧州側から求められる仕様に合わせて自転車をつくり、輸出する。
つまり最初から、海外市場の要求に応えることを前提とした生産をしていました。
「自国内向けの自転車を輸出している」のではなく、「輸出するための自転車をつくっている」。
この違いは、私の中にあったバングラデシュ製品へのイメージを大きく変えました。
仕様表を見て、さらに考えが変わった
それでも、この段階ではまだ「面白いな」という程度だったと思います。
決定的だったのは、その数日後でした。
彼から、生産価格と使用するパーツが記載された仕様表を見せてもらいました。
自転車店をやっている人間ですから、写真だけでなく、フレームや変速機、ブレーキ、ホイールなどの構成を見れば、その自転車がどの程度のものなのか、おおよその想像ができます。
一つひとつ仕様を確認していきました。
価格も見る。
もう一度、仕様を見る。
そして、そこで初めて思いました。
「あれ、これ日本で普通に販売できそうだな」
最初に相談を受けたときには、店の一角を貸すくらいのつもりだったバングラデシュの自転車。
それが少しずつ、「自分でも扱えるかもしれないもの」に変わり始めました。
まだこの時点では、後に自分たちでブランドを立ち上げることになるとは考えていません。
けれど、私がそれまで知らなかったところで、自転車をつくり、ヨーロッパへ送り続けている国がありました。
そして何より、その存在を知らなかったのは、最初の私自身でした。
知られていない、自転車の国から。
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